ご挨拶

  • 第28回日本ペインリハビリテーション学会学術大会
    大会長 片岡 英樹
    長崎記念病院リハビリテーション部 副部長
    長崎大学医学部保健学科理学療法学専攻 臨床教授
  • 大会長 片岡 英樹

「臨床実践の新機軸」

謹啓  このたび,2024年6月8日(土)~9日(日)の2日間,長崎県長崎市の長崎大学医学部医学科坂本地区キャンパス1にて,第28回日本ペインリハビリテーション学会学術大会を開催する運びとなりました。
 ペインリハビリテーションでは患者を生物心理社会モデルで捉え,運動療法や物理療法,認知行動療法,患者教育などを実施し,痛みの軽減だけでなく,機能や能力障害の改善を図り,復職や社会的役割の獲得を促すことでQOLの向上を目指します。2001年に本学会が発足して以来,生物心理社会モデルに基づいた痛みの病態評価や運動療法をはじめ各種介入戦略の効果に関するエビデンスが蓄積されてきました。そして,最近では,痛みの病態解明や技術革新により新規治療法に関する知見も得られてきています。また,情報通信技術(ICT)やそれによりつながるモノ(IoT)を活用して従来モデルを変革していくDX(デジタルトランスフォーメーション)はリハビリテーション医療においても浸透しつつあり,これはペインリハビリテーションの臨床実践にも変革をもたらすと思われます。例えば,患者中心のリハビリテーション(patient-centered rehabilitation)を実践するための医療用アプリケーションを用いた評価や介入に関する知見が増えており,その有用性は益々高まっています。また,デジタルヘルスの発展によりウェアラブルデバイスを用いて,医療施設のみならず日常生活環境における患者の身体活動を捉え,効果的な運動療法や行動医学的アプローチを提供できる可能性が示されています。今後は,このような新たな知見に基づいた介入や研究が展開されていくことで質の高いエビデンスが確立され,日常の臨床に実装されていくことが期待されます。
 一方,国際疼痛学会(IASP)は2019年にGlobal Year Campaignとして『Against Pain in the Most Vulnerable』を掲げ,小児や高齢者,精神疾患など,自身の痛みを明確に表現できない患者に対する疼痛マネジメントの質の向上を課題としています。これらの患者では,コミュニケーションが円滑にいかないことも多く,痛みの評価やアセスメントも的確に遂行できないことが少なくありません。そのため,リハビリテーションも含めた適切な疼痛マネジメントを実践できず,難治性慢性疼痛に発展しているケースもあるのではないかと思われます。加えて,これらの患者が抱える痛みの問題についてはまだまだ議論が不十分であり,医療者側の理解は十分とは言えない現状があります。実際,本学会においてもこれらの患者が抱える痛みについてこれまでに十分な議論を重ねることはできていませんでした。したがって,われわれは前述した患者の痛みについて理解を深め,臨床実践の質の向上を図る必要があると考えています。
 そこで,本学術大会のテーマを『臨床実践の新機軸』としました。新機軸とは,「従来のものとは異なった新しい工夫や方法,計画」を意味します。本テーマの下,ペインリハビリテーションに関わる新たな知見や技術をどのように活用し,日常の臨床に実装していくかについて議論するとともに,臨床実践が不十分な患者について理解を深め,少しでも効果的な介入が可能となるような新機軸を打ち出すことを目指したプログラムを企画しております。なお,本学術大会は,現地開催を予定しており,各種講演やセミナー,シンポジウム,一般演題(口演,ポスター)のほか,オンラインによるプレコングレス企画の開催も検討しております。
 本学術大会を開催する長崎大学医学部は,1857年にオランダの軍医ポンペ・ファン・メールデルフォールトによって日本初の系統的な西洋医学教育が開始されたことに起源しています。そして,いま,長崎市では100年に1度の変革として,昨年の西九州新幹線の開業やその他の大規模な都市再生整備が進んでいます。このような深い医学的な歴史を持ちながら,新たな変革が進む長崎の地で皆様とともに,ペインリハビリテーションの臨床実践の新機軸について活発な議論ができることを楽しみにしております。第28回日本ペインリハビリテーション学会学術大会が実り多き大会になるよう,皆様のご参加を心よりお待ちしております。
謹白